近年、高校野球の写真撮影について色々と議論されています。
今回は数年前に話題になった件を振り返り「肖像権」について考えていきます。
ブログ運営の方針
当ブログは『プロ野球の著作権・肖像権』に準じた運営を心掛けています。
また、使用している写真は著作者・肖像者に連絡をとり許可を頂いています。
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当記事は以下の記事の詳細ページとなります。
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ポイントとなる”2つの権利”
今回のポイントとして2つの権利があります。
肖像権と施設管理権ですが、それぞれについて順を追って説明していきます。
[ 肖像権と施設管理権 ]
肖像権または施設管理権についてすぐ知りたい方は以下から選んでください。
高野連からの注意喚起
2016年に山梨県高野連のホームぺージのネット公開禁止の通達が話題になりました。
各県高等学校野球連盟の許諾なく、全ての大会の試合での選手の模様を映像(VTR・写真)や音声をインタネット・ツイッター上で投稿・配信することや、自身の WEB 上にアップ・掲載し視聴できるようにする行為は権利の侵害にあたり違法です。
~ 山形県高等学校野球連盟 (※ 現在は削除)
また、この件に関しては以下のように大手の新聞やネットでも取り上げられ話題となりました。
ちなみに2020年2月現在では以下のように掲載されています。
簡潔な内容にはなりましたが、2016年とほぼ同じような文面となっています。
本連盟の公式戦における写真、動画についての撮影は個人で楽しむ以外について、許可なくWEB等に動画、静止画、音声を配信する行為は禁止しております。
① 以前の高校野球の「撮影禁止」とは内容が変化
以前から高校野球の試合の撮影禁止の話はありました。
ただ、それは撮影による試合での不正を防ぐためだったと思います。
実際に以下のような撮影禁止の通達がずいぶん前から出ていました。
これらを見ていくと2016年に出された内容とは違うことがわかります。
また、「チーム関係者に対して」から「観客に対して」に変わってきています。
本県では平成21年度より試合中(公式戦のみ)における機器を用いた撮影及び記録について区域を制限させていただいております。
加盟校の指導者、並びに部員の偵察行為を全面的に禁止した。(ビデオ撮影など)不正があった場合は、責任教師に厳しく指導した。また、バックネット裏付近での試合観戦も合わせて禁止した。
② 山梨県高野連が「警告文」を掲載した経緯
ではなぜ山梨県高野連はこのような警告を出したのか気になります。
山梨県高野連はこの件について取材された中で以下のように回答したようです。
日本高野連の指導の下で行っていることで、昨日今日決まったものではないです。写真・動画の禁止はホームページ上に何度か載せてはいましたが、『ネットマナーを守って』ということを詳しく説明するために改めて掲載しました。
この時は初めてではなく、以前からホームページには掲載していたようですね。
また、自分たちは日本高野連の指示に従っただけということのようでした。
確かに支部なので本部からの指示があれば、それに従うのが自然ではあります。
ごくごく自然の流れの中、何故か山梨県高野連が注目される形となったようです。
③ 2019年もSNS上で混乱の声
2019年もSNS上では各地の情報とともに賛否の意見が飛び交っていました。
さらに混乱をまねいていたのが全国高野連で統一されていないルールでした。
- 撮影は全面的に禁止
- 個人の撮影であれば良い
- ネットへの投稿は禁止
- 禁止区域以外なら撮影可能
主に上記のような様々なルールが統一されることなく、各地で注意喚起されていました。
こういった支部による“ルールのズレ”があることで、現地で観客たちの混乱を招いています。
話題になった2016年から3年が経過して、いまだ統一されていないのは少し疑問ですね。
各支部の判断に任されているのかも知れませんが、高野連で統一する方がわかりやすいですね。
全国高野連のホームページをみてみましたが撮影禁止の件の記載はありません。
現状がどうなっているのかわかりませんが、本部の見解が少しでもわかると良いですね。
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選手には「肖像権」が存在する
最初の山梨県高野連の文面にあった「権利の侵害」について考えます。
高校球児に限らず、全ての人には「肖像権」というものが存在しています。
「個人の私生活上の自由の一つとして、何人も、その承諾なしに、みだりにその容ぼう・姿態(以下「容ぼう等」という。)を撮影されない自由を有する」
その肖像権は「人格権」と「財産権」の2つにわかれています。
人格権は「プライバシー権」、財産権は「パブリシティ権」とも呼びます。
「肖像権」の分類
- 人格権 (プライバシー権)
- 財産権 (パブリシティ権)
対象が著名人の場合は財産的価値があることから「財産権」が発生します。
例えば、著名人が広告塔の商品が売れやすいのを考えるとわかりやすいですね。
ネット上にタレントやスポーツ選手の写真を無断で投稿した場合を考えます。
その場合は著名人には「財産権」が発生しますので財産権の侵害となります。
ただ、肖像権は憲法で明確に定められたものではありません。
しかし、全ての人に与えられる「権利」であり、守られる「権利」でもあります。
プロ野球のパブリシティ権については別の記事で詳しく記載しています。
テレビで通行人の「モザイク」が増えた
最近はテレビでも許可をとっていない通行人の顔にモザイクをかけるようになりました。
以前はそこまでしていなかったのですが、時代に合わせて徹底しているのかと思います。
Googleストリートの画像もモザイク加工
Googleストリートでも表札・ナンバープレート、顔などにモザイクがかかっています。
プライバシー権に準じたものですが、問題がある場合は「削除リクエスト」も可能です。
動物には肖像権は存在しない
ペットや競走馬など動物には肖像権はありません。
法律上は「物」とみなされ「動産」扱いになります(民法85条・86条)。
ただし、所有権(物理的に支配する権利)に関しては対象にはなります。
① 「肖像権の侵害」にあたるものとあたらないもの
ネット上に投稿する際には以下の点に注意が必要です。
基本的に「肖像権の侵害」に該当する可能性があるのは以下の通りです。
肖像権に該当する場合
- 個人がはっきりと特定できる
- 特定の人物がメインとなっている
- ネット上など不特定多数への拡散
逆に、肖像権の侵害にならない可能性があるは以下の通りです。
肖像権の侵害にならない可能性がある場合
- 広い風景の中に写り込んでいる
- 被写体の背景に写り込んでいる
- 明瞭な写真でなく個人が特定できない
- 本人から許可をとっている
要するに、「個人が特定できるような写真は肖像権の侵害」ということになります。
その他、例外としては以下のようなものは肖像権の侵害にはあたらないようです。
肖像権侵害の例外規定
- 事件などで報道に必要な場合
野球で言えば、選手の練習を遠くから撮影したようなものは侵害にはなりません。
逆に、スポーツ紙でみるような個人が明確に特定できる場合は「肖像権侵害」となります。
[ 肖像権の侵害にはあたらない例 ]
② 肖像権侵害で訴えられるのは「民事」
さきほど述べたように「肖像権」は憲法にはありません。
ですので「刑事訴訟」で裁かれることはなく、「民事訴訟」の対象となってきます。
- 刑事訴訟 ⇨ 犯罪行為に対する訴訟 (例 : 著作権侵害)
- 民事訴訟 ⇨ 私人間のトラブルに対する訴訟 (例 : 肖像権侵害)
もし「民事訴訟」となった場合に請求される内容は以下の通です。
- 損害賠償請求(民法709条) ⇨ 慰謝料の請求
- 差し止め請求 ⇨ コンテンツ削除の請求
ただし、その他の権利と同じように肖像権侵害かどうかは本人に委ねられます。
不要な写真の投稿は避けて、投稿する際は許可をとって投稿するほうが安全です。
③ Twitterで起きた「肖像権侵害」の判例
調べていくと以下のようなSNSでの肖像権侵害が判例としてありました。
電車内で無断で娘さんの写真を撮られ、Twitter上に無断で投稿されました。
「デモに連れていかれ熱中症で亡くなった子」と嘘の投稿によるものです。
結果、投稿者のマンション名や住所まで特定されて開示されたようです。
④ 他人が撮影した写真の使用は「著作権侵害」にも
ここまで「肖像権」について述べてきました。
しかし、SNS上では他人が撮影したものを投稿しているのも目にします。
この場合は、撮影者に著作権がありますので「著作権の侵害」にもなります。
撮影者の「著作権侵害」と撮影された人の「肖像権侵害」。
つまり、上記の2つの権利の侵害が発生してしまうことになります。
著作権侵害は法律にも明記され「刑事」「民事」ともにあります。
最悪の場合には逮捕されるというケースも過去にはあったようです。
他人が撮影した写真を投稿した場合
- 撮影者の許可がない場合 ⇨ 著作権侵害 (刑事・民事訴訟の対象)
- 撮影された人の許可がない場合 ⇨ 肖像権侵害 (民事訴訟の対象)
補足説明
写真の著作権は「人」が撮影した場合のみ発生します。
スピード写真や人工衛星など機械的に撮影したものには著作権は発生しません。
人には創造性が発生するためですが、詳しくはこちらの記事を参照ください。
⑤ 「高校野球の肖像権」は報道関係には許可されている
高校野球に関する報道関係には以下の通り「肖像権」」は許可されています。
当然ながら、新聞や雑誌も出版できなくなってしまうので調べるまでもありません。
第25条(新聞・通信、テレビ・ラジオ、出版に関する権利)
学生野球団体が、自己の主催する試合・大会に関わる新聞・通信記事、テレビ・ラジオの放送、出版物(以下「記事、放送、出版物」という。)について許諾を与えた場合には、加盟校、野球部、部員、指導者、審判員および学生野球団体の役員は、当該試合・大会に関わって、その名称、氏名、肖像、映像など一切の情報および予め提供された個人情報を学生野球団体および許諾を得た者が記事、放送、出版物に使用することを承諾する。
~ 日本学生野球憲章
SNSでは「甲子園の放送は肖像権の侵害にならないのか」と話があります。
しかし、上記の通り、テレビ局は「許可を得た者」になるため問題ありません。
野球部に所属した時点で選手もこれに同意したという形になります。
以下のように大会ごとでも肖像権についての規約が設けられていたりもします。
施設を使うルールを決める「施設管理権」
もうひとつ知っておきたい権利があります。
それは各施設には「施設管理権」が存在するということです。
施設を管理するものが「施設の利用に際して権限」を持つものです。
例えば、公共の施設でも使用に際してのルールがあると思います。
外部の者は使用する以上はそのルールに沿っていなくてはなりません。
例えば、以下のような注意書きをよく見かけるかと思います。
神社仏閣、美術館、映画館、レストラン、観光施設などによく設置しています。
施設管理権の適用例
- 三脚の使用禁止
- 館内は撮影禁止
- ストロボ撮影禁止
- 線路内での撮影禁止
- 芝生内での撮影は禁止
① 甲子園にも同じように「施設管理権」が存在する
これは甲子園や地方球場でも同じです。
使用に際して「撮影」に関する施設のルールがあれば従うしかないのです。
公共施設であっても、野球場であってもそこは変わりません。
映画館は基本的に「撮影禁止」なので撮影しないのと同じですね。
弁護士の方も施設管理権について以下のように述べています。
施設管理権の一環として,『施設内での撮影を禁止する』ことは可能です。
一例として,『内装,人物はNG,料理のみ撮影OK』ということも可能です。
これに反して無断で撮影した場合,施設管理権を侵害したことになります。
② 求められたら写真削除・会場退去、場合によって損害賠償や逮捕も
上記の通り、施設管理権を守らない場合は主催より以下を求められることがあります。
- 撮影した写真の削除
- 会場からの退去
また、警備員などと揉めて中断した場合などは損害賠償請求されることもあります。
2018年にはMazdaスタジアムで試合中に乱入した男性が威力業務妨害で逮捕されました。
- 試合中断による「損害賠償請求」
- 試合進行を妨げたとして「威力業務妨害で逮捕」
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③ 六大学野球では「SNS投稿に積極的」
反面、東京六大学ではSNSへの投稿に積極的です。
“六大学フォトコンテスト“と銘打ち、SNSへの投稿を募集していました。
週ごとに優秀作を選び、タオルやサインボールをプレゼントする企画も。
このように一部の大学野球では、撮影に対して積極的な考え方もあります。
【フォトコンテスト企画】
春季リーグ戦よりSNS参加型企画がスタートします。「#六大学フォトコン」 をつけてSNSに投稿するだけで、抽選でサインボールが当たるチャンスもあります!
詳細は以下からご覧下さい。https://t.co/x2o7ehFele
春季リーグ戦も神宮球場にて温かいご声援をお願いします。 pic.twitter.com/20nWB1aknF
— 一般財団法人 東京六大学野球連盟 (@big6_official) April 10, 2019
個人的には「撮影だけ」であれば問題ない
ここからは個人的な見解となります。
興味がある方はお付き合い頂ければ幸いです。
① 問題なのは撮影ではなくネットへの投稿
個人的には高校野球に関しては撮影は許可しても良いとは思います。
人生の大事な思い出が残らないのは残念ですし、撮影禁止は厳しすぎるかなと。
ここで議論が必要なってくるのは「ネット上への投稿」になると思います。
山梨県高野連の文面も撮影云々ではなく、ネットに投稿する行為の注意喚起。
確かにSNS上では選手が”戦犯扱い”で選手がさらされる投稿も時折目にします。
また、頭部付近への死球などでケガをしたシーンなどが投稿されたりもします。
輝くプレーの投稿なら良いですが、そうではない投稿がされているのも事実。
ネット上に投稿すると一気に拡散し、永遠にネット上に残る可能性は高いです。
「今の時代に古い考えだし、投稿は自由にすべき」という意見もあります。
ただ、もし「自分の家族が対象になったら」と考えると別かなとも思います。
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① ネットを利用する側のモラルも必要な時代に
野球にルールがあるのと同じように、肖像権というルールも存在します。
時代などに追いついていない部分はあれど、ルールなので仕方ないのかなと。
ここ数年で一気に誰でも簡単にネット投稿ができる時代になりました。
それには良い面も悪い面ありますが、全否定するのも少し違うようにも思います。
結局のところは使う側のモラルが大事になってくるのかなとは思います。
いずれにせよ、この問題については賛否両論でしばらく議論が続きそうです。
ネット上で写真を使用する場合は本人もしくは管理団体に許可を得ると良いですね。
許可がとれない場合はむやみにネット上に人物写真を載せない方が安全だと思います。
結局、ここまで厳しくさせてしまった原因は利用する側にあるのかなと思います。
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今回のまとめ
今回は高校野球の写真撮影やネット投稿の話を進めてきました。
色々と調べてみたのですが、高野連で統一した発表はありませんでした。
公式発表がないためか、支部により見解が異なっています。
そのため利用する側の混乱を招いている状況もSNS上でみられます。
ただ、公式発表がなかったとしても「肖像権」は存在します。
権利として存在している以上は完全に無視して考えるのも難しいです。
近年は気軽にネット上に写真や動画を投稿できるようになりました。
以前であれば、パソコンを開いて写真を撮り込んでアップロードしてなど。
ブログをやっている人以外はネットに投稿することも無かったと思います。
YouTubeやSNSの普及により著作権や肖像権など様々な問題が生じています。
ただ、こういったものを全て悪いとしてしまうのは違うかなとも思います。
何か問題のある投稿が続いたから、こういった注意喚起も出たのかなと。
今後は「罰則規定」などがさらに厳しくなることも予想できます。
SNSなどネットを使う側の配慮が試されているのかも知れませんね。
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