先発投手の中にはなぜか負けがつかない投手が存在します。
今回は援護率や失点などから負けのつかない理由について話を進めていきます。
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援護率の際立った山口俊投手と高橋礼投手
規定投球回数到達者の援護率と防御率をグラフ化しました。
山口俊投手と高橋礼投手の5点台を超える援護率が際立っています。
特に山口俊投手は6点台を超えており、かなり打線に援護されています。
1試合平均で6点以上も点が入ればほとんど負けることはなくなるでしょう。
逆に山本由伸投手の援護率は2.5点を下回り、全投手の中で最も低い数字。
援護率は山口俊投手の半分に満たず、“最も不運な投手”だったと言えます。
図1 規定投球回数到達者の援護率
① 1試合(9回)あたり打線が何点取ってくれるかを率で表したもの
② 数字が高い方ほど投手が投げた時に多く点を取ってくれている
① 高い援護率と勝利数の関係
まずは規定投球回数到達者で10勝以上の投手と10勝以下の投手を分けてみます。
[ 10勝以上と10勝未満の投手 ]
規定投球回到達者 | |
---|---|
10勝以上 | 山口俊、有原航平、千賀滉大、今永昇太、山岡泰輔 高橋礼、ジョンソン、柳裕也、大瀬良大地、西勇輝 |
10勝未満 | 大野雄大、青柳晃洋、山本由伸、美馬学、小川泰弘 |
次に「援護率と勝利数」の関係性をプロットしました。
10勝以上をあげた10投手のうち7投手が援護率が4.00台以上。
二桁勝利をあげるには援護率が4.00台前後という傾向となりました。
反面、11勝のクリス・ジョンソン投手と大瀬良大地投手は低い援護率です。
つまり打線の援護が多くない中でもしっかりと勝利数をあげたことになります。
そして、山本由伸投手は援護率2.50以下と打線の援護に全く恵まれていません。
これでは投手がいくら抑えても勝利数を多くあげることは難しくなります。
図2 援護率と勝利数の関係
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② 高い援護率と敗戦数の関係
援護率が突出して高かった山口俊投手と高橋礼投手は敗戦数も少ないです。
先ほどのグラフも含め、イメージ通り「勝てて負けない投手」と言えます。
ただ、そこそこ援護があるにも関わらず敗戦数が多い投手もいます。
小川泰弘投手は4点以上援護があるにも関わらず、12敗も記録しています。
同時に山本由伸投手のように援護率が低くても負けない投手もいました。
ただし、登板試合数が20試合と他の投手に比べて少ないという影響もあります。
とはいえ、ここまで援護がない中で負けないということは評価するべきでしょう。
2019年の山本由伸投手がどれだけ完璧に打者を抑えていたかがよくわかります。
図2 援護率と敗戦数の関係
防御率が悪くても負けていない山岡泰輔投手
10勝以上の投手をピックアップして援護率と防御率をグラフ化しました。
図3 援護率と防御率の関係
防御率が3.50以上を”打たれている投手”とすると以下の3投手となります。
こうしてみると、山岡泰輔投手は“防御率が悪い割に勝ってて負けていません”。
規定投球回数到達者15人のうち防御率ではワースト3に位置しています。
極端に援護率が高い訳ではないですが、”勝てて負けない”理由はなんでしょう。
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① 投球内容が大きく改善している訳ではない
防御率を見ると、プロ入り後3年続けて3点台後半と良くないです。
つまり、基本的には“平均的に4点近く点を取られる先発投手”です。
ただ、2019年の勝敗数であれぱ通常は2点台くらいが普通です。
しかし、勝敗数は良くなっても防御率はほとんど改善していません。
[ 2017~2019年の防御率と成績 ]
防御率 | 成績 | |
---|---|---|
2017 | 3.74 | 8勝11敗 勝率 .421 |
2018 | 3.95 | 7勝12敗 勝率 .368 |
2019 | 3.71 | 13勝4敗 勝率 .765 |
色々と調べましたが、2019年に大きく向上したデータも無さそうです。
確かに前年比で四球率が減ったぶん、被出塁率は減ってはいました。
また、2018年はよく打たれていたストレートも2019年は改善しています。
ただ、それ自体がここまで勝率が良くなるほど強い要素と思えないのも事実。
そうであれば、少なくとも防御率は3点台前半になっていたと思います。
負けない理由は「失点減少によるもの」ではない可能性は高くなります。
過去3年間の援護率を見ていくと年々その援護率が上がっています。
2019年には防御率と援護率が逆転するまで数字があがってきました。
当然ながら、援護率が向上してくると負けにくくはなってきます。
投球内容よりも「援護率」の変化が勝敗数に反映した可能性が高いです。
[ 援護率と防御率の関係 ]
援護率と防御率の関係 | |
---|---|
2017 | 援護率 3.13 < 防御率 3.74 |
2018 | 援護率 3.95 = 防御率 3.95 |
2019 | 援護率 4.34 > 防御率 3.71 |
② 4失点以上した試合の勝敗状況
続いて4失点以上した試合で敗戦が付かなかった率を算出しました。
2019年に最も敗戦数の少ない山口俊投手と山岡泰輔投手のデータをみていきます。
敗戦が付かない率は山口俊投手は.833、山岡泰輔投手は.769とかなり高くなっています。
つまり、両投手とも「失点が多くても負けにくい投手」と言えます。
- 山口俊 .833 5/6
- 山岡泰輔 .769 10/13
ただし、山口俊投手の場合はトータルの防御率が2.91と打たれていません。
実際、4失点以上を記録した試合は山岡泰輔投手の半分以下しかありません。
同じ「高い確率で負けない投手」ではあっても、その中身は異なっています。
[ 山口俊投手と山岡泰輔投手の投手タイプ ]
山口俊 | 4失点以上の試合は少なく、取られても負けにくい |
---|---|
山岡泰輔 | 4失点以上の試合が多く、取られても負けにくい |
また、山岡泰輔投手は4点以上とられた試合で5勝あげています。
同条件では山口俊投手が3勝、有原航平投手が2勝、他が0~1勝。
試合数の関係もありますが、4失点以上しても圧倒的に勝利に恵まれました。
こうした背景があれば、勝敗数や勝率に有利に働くことがよくわかります。
[ 4失点以上とられた試合の勝利数 ]
- 山岡泰輔 5勝
- 山口俊 3勝
- 有原航平 2勝
- その他 0~1勝
③ 最高勝率のタイトルの背景に「打線の援護」
山岡泰輔投手は勝率.765で最高勝率のタイトルも獲得しています。
防御率が良くなくても、打線に援護され、失点の多い試合も負けずに済む。
圧倒的な投球内容だったというよりも、打線の援護に恵まれた側面があります。
[ 2019年 勝率 ]
- 山岡泰輔 .765 ( 13勝4敗 3.71 )
- 高橋礼 .667 ( 12勝6敗 3.34 )
- 有原航平 .652 ( 15勝8敗 2.46 )
- 千賀滉大 .619 ( 13勝8敗 2.79 )
① 13勝以上をあげた投手で勝率が最も高い投手
② 2013年からタイトルとして表彰
③ 正式名称は「勝率第一位投手賞」
過去の最高勝率受賞者の「防御率」
過去の最高勝率のタイトルを受賞した選手を振り返ります。
全体の7割程度の投手が1~2点台の防御率を記録しています。
防御率3.50以上を記録したのは2018年の大瀬良大地投手のみ。
山岡泰輔投手が防御率3.71で獲得できたが異例なのがわかります。
2018年の大瀬良大地投手も獲得してますが、例年に比べ低い勝率です。
最高勝率を.600台で獲得した年はないのでこちらも異例の獲得でした。
ちなみに、菅野智之投手の名前が1度も入っていませんでした。
投手タイトルを総なめにしてきた投手が獲得してないのは意外でした。
[ セパ・リーグの最高勝率受賞投手 ]
獲得者 | 勝率 | |
---|---|---|
2013 | 小川泰弘 田中将大 |
.800 ( 16勝4敗 2.93 ) 1.000 ( 24勝0敗 1.27 ) |
2014 | 山井大介 岸孝之 |
.722 ( 13勝5敗 3.21 ) .765 ( 13勝4敗 2.51 ) |
2015 | マイコラス 大谷翔平 |
.813 ( 13勝3敗 1.92 ) .750 ( 15勝5敗 2.24 ) |
2016 | 野村祐輔 和田毅 |
.842 ( 16勝3敗 2.71 ) .750 ( 15勝5敗 3.04 ) |
2015 | 薮田和樹 千賀滉大 |
.833 ( 15勝3敗 2.58 ) .867 ( 13勝2敗 3.06 ) |
2016 | 大瀬良大地 ボルシンガー |
.682 ( 15勝7敗 3.53 ) .867 ( 13勝2敗 3.06 ) |
2016 | 山口俊 山岡泰輔 |
.789 ( 15勝4敗 2.91 ) .765 ( 13勝4敗 3.71 ) |
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① 最多勝を獲得した多和田真三郎投手
最高勝率以外にも、高い援護率で最多勝を受賞した投手もいます。
2018年のパ・リーグ最多勝の多和田真三郎投手がそれに該当します。
[ 2018年シーズン成績 ]
- 26試合 16勝5敗 3.81 勝率 .761
- 援護率 6.95 (12球団トップ)
山岡泰輔投手と同様に高い勝率を残していますが、防御率は3.81と悪化。
クオリティースタート率(QS率)もパ・リーグ規定到達者の中でワーストの53.85%。
① 先発投手が6イニングを投げ、自責点3点以内で抑えること
② 以前は先発投手とした重視されたが近年は見直されつつある
- 岸孝之 69.57%
- 菊池雄星 69.57%
- 涌井秀章 68.18%
- 上沢直之 68.00%
- マルティネス 68.00%
- 西勇輝 60.00%
- 則本昂大 57.69%
- 山岡泰輔 56.52%
- 多和田真三郎 53.85%
本塁打196本の強力打線をバックに勝率に恵まれた感は否めません。
打線による援護によりタイトル獲得に大きく影響することがわかります。
ただ、翌年の2019年はわずか1勝しか出来ず不本意なシーズンに。
2018年よりも長打や強い打球を打たれる機会が多く失点が増加しました。
[ 2019年シーズン成績 ]
- 12試合 1勝6敗 5.83 勝率 .142
- 援護率 4.17
② 過去の「援護率トップ」から検討
過去の援護率トップを見ても多和田真三郎投手と似たような傾向の投手がいます。
2013年の野村祐輔投手、2014年の石川雅規投手、2017年の大瀬良大地投手の3人。
[ セ・リーグ援護率トップの投手 ]
投手 | 援護率 | 成績 | |
---|---|---|---|
2011 | 吉見一起 | 3.81 | 18勝3敗 1.65 |
2012 | ホールトン | 4.87 | 12勝8敗 2.45 |
2013 | 野村祐輔 | 5.56 | 12勝8敗 3.74 |
2014 | 石川雅規 | 5.83 | 12勝6敗 4.75 |
2015 | 石川雅規 | 4.68 | 13勝9敗 3.31 |
2016 | 野村祐輔 | 5.74 | 16勝3敗 2.71 |
2017 | 大瀬良大地 | 5.75 | 10勝2敗 3.65 |
2018 | ジョンソン | 5.44 | 11勝5敗 3.11 |
パ・リーグの援護率トップも同様に似たような傾向の投手がいます。
2014年の中田賢一投手、2015年の十亀剣投手、2018年の多和田真三郎投手の3人。
[ パ・リーグ援護率トップの投手 ]
投手 | 援護率 | 成績 | |
---|---|---|---|
2011 | ホールトン | 4.82 | 19勝6敗 2.19 |
2012 | 牧田和久 | 4.01 | 13勝9敗 2.43 |
2013 | 田中将大 | 6.08 | 24勝0敗 1.27 |
2014 | 中田賢一 | 5.40 | 11勝7敗 4.34 |
2015 | 十亀剣 | 5.19 | 11勝7敗 3.55 |
2016 | 和田毅 | 4.87 | 15勝5敗 3.04 |
2017 | 金子千尋 | 5.06 | 12勝8敗 3.47 |
2018 | 多和田真三郎 | 6.95 | 16勝5敗 3.81 |
③ 「タイトル獲得 = 投球内容が良い」とは言えない
以上のように、防御率が悪くても高い援護率で高い勝率の投手もいます。
同時に、防御率が悪くても高い援護率で高い勝利数の投手もいます。
タイトル獲得や勝敗数を見ただけで良い投球内容かどうかは判断出来ません。
味方打線、野手の守備、球場の状況、天候などによって大きく影響します。
勝敗数には少なからず”運も左右”しており、そういった視点も必要です。
「タイトル獲得 = 投球内容が良い」ではないことは知っておきたいですね。
野球は様々な運が影響しており、それが少なからず成績に反映します。
投手の本質としてタイトル獲得よりも投球内容にこだわる方が良いでしょう。
もちろん獲得できることは良いことですし、年俸にも反映します。
とはいえ、偶然は長く続かないのでやはり投球内容にこだわるべきでしょう。
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ここまでわかったこと
ここまでわかったことをまとめます。
- 2019年の援護率が高いのは山口俊投手と高橋礼投手
- 反対に援護率が低いのは山本由伸投手
- 援護率が高いと勝ちやすく負けにくい傾向
- 防御率が悪くても勝率の良い投手がいる
- 山岡泰輔投手の好成績に援護率が関与した可能性
- 山岡投手と山口投手は4点以上取られても負けにくい
- 過去の最高勝率を見ても山岡投手の防御率は異例
- 2018年の多和田真三郎投手も援護に助けられた
- 過去にも援護率トップで防御率の悪い投手はいた
今回のまとめ
今回は援護率と勝率の関係を中心に話を進めてきました。
援護率に恵まれると当然ながら先発投手にとっては有利です。
多く失点したとしても、負けがつきにくく、勝ちを拾えます。
投手にとって負けがつかないというのは精神的にも大きいです。
また勝利がひとつでもつくことでモチベーションもあがるでしょう。
それだけ打線の援護は投手に対して大きく影響する因子と考えられます。
野球は「投手が中心」という言葉もよく耳にしてきました。
しかし、近年のプロ野球を見てわかる通り打てるチームが強いです。
2000年代までのように「最少失点で守り勝つ」は通用しなくなりました。
勝率は打線の援護によって大きく左右されます。
そう考えると安易に勝利数や勝率だけで投球内容を判断出来ません。
野手との関係、球場との関係、様々な因子が関わって結果に繋がります。
そういった視点で見ていくと、案外過小評価されている投手もいます。
本来評価されるべき投手が影に隠れていることも少なくありません。
当然ながら、その反対に過大評価していることもあるのも事実です。
打線の援護は投手にとって大きな支えとなります。
タイトル獲得やわかりやすい数字以外に目を向けると面白いです。
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